上巻を読んでから身悶えること約一週間、ようやく下巻も読了しました。
いつも、私は面白かったBLに対して「美味しい」という形容詞を使うことが多いのですが、
この作品には↑の形容詞はさすがに不適切な感じがします。
個人的には(ベタベタなメロドラマと知りつつも)かなりのめり込んでしまった作品。
昼メロ、韓流にハマッて抜け出せない方々の気持ちが、今回初めてよく分かりました。
まず、シナプスとは?
私のようにこの言葉の意味が分からない方は、
こちらで語義のご確認を。
(ウィキペディアなので、ちょっと重いのですが)
雑誌の「ニュートン」のような、興味深くも詳細な解説がなされておりますヨ。
このストーリーは、皆様ご存知のように
記憶喪失がメインテーマです。
過去のトラウマに耐えられず衝動的に自殺未遂の末、生命は助かるものの記憶を失う主人公。
この状況は、シナプスの伝達回路がバラバラに切断されてしまったとも言えますし、
この作品的表現では過去のつらい記憶を湖の底(or柩)に封印してしまったとも言えます。
私はそもそも、ネタとして記憶喪失というテーマを扱う作品は好きではないのですが、
(無論、この作品のように例外的に好きなものも結構あります)
それはつまり、記憶のリセットとか精神的にアチラ側(彼方、彼岸?)に行ってしまう選択肢は、
いかに美しく思えたとしても、人間最後の最後までそれを選んではいけないと思うからです。
まあ、私のなけなしの倫理観なんですが…。
故に、それを作品の装置として使うことはちょっとズルイ反則技のように思えてしまうのですね。
(余談ですが、そういう見地から私は小野不由美さんの小説が苦手です)
さて、で、こちらの作品なんですが、主人公は悩みつつも記憶を取り戻して、
最終的には、社会的人間としてシナプスの復旧に努力するお話でしたので、
苦手なテーマとはいえ、それゆえ安心して主人公に共感して読むことが出来ました。
攻めの精神力、忍耐力もナカナカなモノです。
まあ、幾分穿った見方をすれば、主人公の自殺未遂がなければこの攻めは、
この主人公にそれ程強い思いを自覚することは無かったようにも思えましたが…。
このお話の舞台が私の故郷だった点も、共感指数を高める効果があったように思えます。
冬の北国、もしくは北国の冬、うん、あんな感じです。
この湖のモデルはS湖で、書き下ろしに出てきた水族館はN水族館かなと、
個人的予測もしてみたり…(水族館は↑で間違いないと思いますが湖は自信が無いです)。
彼らが移動手段に飛行機使っているコトには、少し違和感感じましたが…。
(普通は自動車か鉄道か長距離バスを使うような…猛吹雪でもまず動きますし)
※JR北海道は私の体験上、普通列車は止まりますが、急行・特急は人海戦術で意地でも動かす気がします。又、主人公が比喩表現として使う「解剖」「心臓」「血液」「ウィルス」といった言葉に、
あるいは人体標本や骨格標本に愛着を感じる主人公に、いささかグロテスクとはいえ、
言語感性の独特な美しさを感じました。
これがロシア・フォルマニズムが言うところの
異化効果なんでしょうね。
個人的に初読みの華藤さんですが、正直文章や文体にそれ程魅力は感じなかったのですが、
言葉や単語の一つ一つに対する独特の美しいセンスには圧倒されました。
ついでに、タンゴのお話も購入してみたのでそちらの方も楽しみです。
素敵な小説をありがとうございました。
<作品データ>
・
華藤えれな『
シナプスの柩』上(
佐々木久美子・画、幻冬舎
リンクスノベルス)2006.9
ISBN4-344-80838-X
・
華藤えれな『
シナプスの柩』下(
佐々木久美子・画、幻冬舎
リンクスノベルス)2006.10
ISBN4-344-80859-2
N水族館といえば、その昔「ねるとん」というテレビ番組の舞台会場になったコトが印象深いです。
佐々木久美子さんのイラストも相変わらず魅力的です。
特に本編最後の4つのコマに分かれた挿絵というよりはサイレント漫画。
実は小説の文章だけだとこのシーンがちょっと分かりにくい状況でしたので、
この変則的な挿絵漫画はありがたかったです。
私が
佐々木久美子さんの漫画に飢えているってのもあるのでしょうが…。
N水族館といえば、その昔「ねるとん」というテレビ番組の舞台会場になったコトが印象深いです。
佐々木久美子さんのイラストも相変わらず魅力的です。
特に本編最後の4つのコマに分かれた挿絵というよりはサイレント漫画。
実は小説の文章だけだとこのシーンがちょっと分かりにくい状況でしたので、
この変則的な挿絵漫画はありがたかったです。
私が
佐々木久美子さんの漫画に飢えているってのもあるのでしょうが…。
コメントTBともども、本当にありがとうございました。
>mimuさん
シナプスの語義は私の場合、漠然どころか全く分かっておりませんでした。
調べないと又記事で恥をかきそうだったので、今回はあらかじめ調べておきました。
ええ、私北国生まれの北国育ちなんですよ(別にボカす程のネタでも無いのですが…)。
友人知人同僚各人に、「お前は日本人のメンタリティーが足りていない」と、
指摘されることが多いです(そして半ば自覚もしております…)。
その原因は、多分に道産子だからなんだと思って最近では居直っておりますが(笑)。
他者に対する思いやりに欠けているとか、遠慮が無いとかね…もうイロイロ…。
要するに、未だに建前と本音が使い分けられないのですよね。
東京に出てきて10年近く経つのですが…。
私の故郷は一般的には某ドラマのあのイメージが未だに濃いらしく、
作品の舞台として取り上げられていても、ちょっと夢見すぎだろうってのが多いのですが、
この作品の北国の扱いには大変満足しております。
幻想的なイメージはあくまで華藤さんの作風であって、主人公の視点であって、
北国そのものが幻想的に描かれている訳じゃ無いところが好感です。
りドリー・スコットの描く大阪ぽくて、このフィルター越しに見える世界に随分ドキドキしました。
最後に改めて、コメント&TBありがとうございました♪
ハスイさん>
こんばんは&はじめまして。
>「死んだら、この指で解剖して下さい」を筆頭に、 フェティッシュとも取れる要素も高く、一人で大喜びをしてしまったのですが、作品中に沢山散りばめられた、幻想的な世界観と比喩表現は、とても興味深く拝見させて頂く事が出来ました。
そうなんですよね、このフェティッシュな描写には私も堪らないモノを感じました。
華藤さん自身が多分指フェチなんだろうな…と(私は指より腕が好きですが)。
物理的にナニなシーンより、指にひっそり触れたり口付けたり、そういうシーンの方が、
エロティックで萌えるのですよね。
そういえば、今気づいたのですがこの主人公の属性はオフィーリアぽいのですよね。
(水に引きずり込まれそうになる辺りが特に)
どおりでストーリーに目新しさが無いわけだ(笑)、新たな発見です。
コメント&TBもありがとうございました。
TBは最初上手く送信できなかったようなんで、もう一度送らせて頂きました。
今度は大丈夫だと思います。