アンソロジー「OnBLUE」の掲載作品に惹かれ、注目していた柳沢ゆきおさんの新刊が出ていた。
ブライト出版も初出一覧の「Q」なるアンソロジーも殆ど耳にしたことがない、初購入のレーベル。
「OnBLUE」ではシリーズ連載だったけれど、今回の単行本は完全に一話一話が独立した短編集。
大満足だった!!
“萌え”というのとは違うのだが、独特の疼痛のような痛みとほの暗さが作風の底にあると思う。
今から一昔以上前に大人気だった、「NIGHT HEAD」というTVドラマの雰囲気を彷彿させる。
柳沢さんの作品はBL漫画だし、勿論あのドラマのようなサイキックファンタジー仕立てでもない。
が、強烈な(義)兄弟“愛”…もっと言うなら強烈な“受け”を創出している点が似てるんだと思う。
兄弟エピソードは一本だけだが、ほぼ全話で受けが攻めを引き摺り込む設定という共通点がある。
小悪魔を越えた“天使/悪魔”的な“受け”が攻めを翻弄し、彼の身と心を取り込んでいくのだな。
この手の“受け”を相手にするのは、山岸涼子作品の登場人物同様つき詰めると心底“怖い”。
だが、このドロっとした血(鉄)のような匂いを感じる作品は嫌いじゃない。
<作品データ>
・柳沢ゆきお『神とペン』(ブライト出版f-bookコミックス)2011.5
□神とペン何のフラグも無いまま、冒頭5P目で43歳のオッサンがイチモツ取り出していて驚いた(笑)。
彼の元に舞い降りた都合の良い“天使”(@少年バージョン)が、オッサンの枯れた心を潤わす。
オチは想定範囲内だったが、久しく見ることの無かったオヤジ×少年の組み合わせにときめいた。
□まつりのおと今回唯一の兄弟モノ。
役者をしているらしい“弟”が、祭り好きな田舎の“兄”を底なし沼に引き摺り込んでいく感じ。
“弟”を前にした“兄”がタブーを踏み越え、転落していく様子にゾクゾクする。
今回の短編集で一番のお気に入り♪
□せめて美しい言葉を。珍しくBLらしい晴れやかなオチがあり、唯一攻めが受けを翻弄するタイプの変化球作品。
ワンコ×ツンデレでメガネ×メガネで、草間さかえさんご推奨の素晴らしい
メガシャ漫画でもある。
つまり、メガネという小道具の生かし方が上手い話。
□さすらう よるの ながくへ ラララタイトルをこう表記してしまうと意味が半減してしまうのだが、実はとある
折句になっている。
主人公が喪服を身につけているという時点で私の読みは一拓だが、別の可能性があっても良い。
この話は淋しいけれど、幸せの断片を描いているのだと信じている。
□プリーズタッチヒアトゥオープンさしずめ、ギリシア悲劇のオイディプス王の現代バージョンでゲイバージョンか(笑)。
“先生”が“生徒”を翻弄し、“父親”が“先生”を娶り、“生徒”はその複雑な関係に苦悩する。
大人のつもりで大人になりきれていない生徒の傲慢さを指摘する先生の説教が、身につまされる。
彼の父親はどんなにちゃらんぽらんな形をしていても、偉大だったのだと気づかされるんだな。
(父親の偉業の断片は背景にサラッと描かれているのだが、それを全く主張しない彼がステキ♪)
□四次元ラヴァーズ実は「プリーズタッチヒアトゥオープン」のスピンオフでもあるけれど、殆ど独立している。
韓国人留学生に一目ぼれしたゲイ男子が、猛烈なアタックを繰り返して恋を得る話ではある。
が、この作品に描かれている痛みは恋よりも偏見であり、そこに共鳴を感じた二人なんだろう。
「自分が正しいなんて思うなよ」という言葉が重くて、つい我が手をじっと眺めたくなる話。
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